商業出版できる企画とは?編集者の視点と仕事

本の企画から販売戦略までをトータルプランニングする「出版企画・総合出版プロデュース」のスタックアップです。これまで多くの書籍出版プロデュースを手掛けて参りました。

今回は、弊社と共に本のプロデュースに編集者として伴走していただいている瀬崎さんにインタビューを行いました。

瀬崎さんは30年以上にわたり、編集者として多数のビジネス書、実用書の企画・編集に携わってきました。

商業出版のノウハウ、企画の通し方、編集者の仕事内容などを伺いました。

 

商業出版で求められる採用されやすい企画の内容とは?

出版社によって出版までのハードルが異なります。

一人の編集者が「これを出します」といえば通ってしまう会社もあれば、担当編集者から課の会議、部の会議、役員の会議へといくつものステップを経ないと出せない会社もあります。その時々や、その方の立場で、その企画を見る視点は違います。

ただみんなが考えていることは、常にこの企画で「本が売れるかどうか」ということです。

“売れる”という視点で通りやすい企画は次の2通りです。たくさんのフォロワーがいたり、有名であったりする方の企画、または、既に本を出した実績があり、それが売れている方の企画です。

結局、多くの編集者、そして営業担当者も、実績があるかどうかで判断しがちなので、初めての著書を出す場合はハードルが高くなってしまいますね。

しかし、それをかいくぐってでも、一編集者としてはその著者さんの一冊目を出してあげたいし、それを売れるように作ってあげたい。そのことを私はいつも考えていました。

 

自分が見出した著者だからこそ、編集者としての喜びがある

実績のある著者さんだけを追いかけていく編集者もいます。それは手堅いと思いますが、一方で荒野を切り開いていくといったスタンスをもった編集者もいますね。結果が出たときには、後者のほうが喜びは大きいです。

──瀬崎さんの場合は、どんな著者さんなら話を聞いてみたいですか?

まず、言いたいことを簡潔に、かつ力強く持っている方ですね。

また、その内容がこれまでにないもの、他にないものであること。これはめったにないですけど。

それから、派手さはないけれど、コツコツと地道に自分の道を歩んでいて、「これだけは!」というものを持っている方。こういう企画の場合、世の中に出してあげたいなと強く感じます。

──それは著者にとっては、いかにして編集者に選んでもらうかということにつながりますね。

編集者は好奇心、良い意味での野次馬根性をもって、つねに広くアンテナを張っていることが大切ですが、その著者、その企画にピンとくるかどうかは、そうした編集者の経験が大きいと思います。また、編集者のアンテナに引っかかるようなしっかりとした言いたいことを持っている必要があります。

「出版」といっても、大部な学術書、専門書から手軽な冊子のようなものまで幅が広いのですが、出版されている本の9割方が一般書籍です。そして、一冊の本に盛り込める内容はそれほど多くありません。

だからこそ、その本の核となる部分、これはしっかり届けたいという部分が明確にイメージできるものが欲しいですよね。

 

読者に確実に伝えるために、“企画書は1枚で簡潔に”が基本

ノートとペン

昔から言われていますが「企画書は1枚で」をめざしてほしいです。ワンベスト、ツーベターです。なかなか難しいのですが。

専門書や学術書ならともかく、分厚い企画書で多くの言葉を費やして説明しなければならないような企画では、結局、読者に広く届く本にはならないのではないかと思います。核となること、伝えたいことがはっきりしていれば、そんなに多くの言葉は必要ないはずです。

ですから、1枚のみ、その中のワンフレーズでパッと視界が開けるような企画書がベストです。

──専門のライターが原稿を書く場合、著者本人の文章力は必要ありませんか?

ビジネス書、実用書の場合、著者さんは執筆業ではない本業を他に持っている方が多いです。

しかし、私がこの業界に入ったときは、著者さんに依頼したらご本人に書いていただくケースがほとんどでした。そのため、1年~2年待っても「書いてください」と催促し、書いてもらったらダメ出しをして……という感じでした。のんびりしていたんですね。

現在は、ビジネス書の場合、8割以上ライターさんが執筆しているのではないでしょうか。当初、私はライターさんが書くことに違和感がありましたが、今はそれでまったくかまわないと思います。

かといって、著者さん自身に文章力が必要ないわけではありません。何故なら、企画書を書くのにも文章力は必要だからです。

文章力を磨くために誰でもできることは、良い文章をたくさん読んでインプットし、さらに、発信、アウトプットをすることです。

現在は、ブログやさまざまなSNSなど、誰でもアウトプットできるメディアがありますので、それを使ってトレーニングするのがいいでしょう。

また、書くことによって、自分の言いたいこと、伝えたいことの「棚卸し」にもなります。そしてそれを続けることが大事だと思います。見てくれている人は見てくれています。

 

最上の自己アピールになる、名刺代わりのビジネス書

ビジネス 握手

──一般の方の場合、どのように出版社に企画を持ち込めばいいのでしょうか?

既刊の書籍の「担当編集者様宛」でいただいた手紙の中に、感想とともに「実は関連してこういう本を出したいのですが」と企画書が同封されていたことが何度かあります。

──ビジネス書を出版したい方の目的はどのようなものなのでしょうか?

ビジネス書の場合は、名刺代わりという面が大きいと思います。本業で名刺を出して「こういうことをしています」という以外に、「こういう本を出しています」と実績をアピールできます。

ビジネス書の場合、そのような足掛かりとして出版を使っていただいてまったくかまわないと私は思っています。

──名刺代わりにしたいからと持ち込んでも、必ずしも出版されるわけではありませんよね?

それはそうです。コンサルの方や士業の方など、著作を持ちたい方は昔からたくさんいます。しかし、そうした思いがあっても、テーマや内容の質はピンキリですし、思いが空回りしている場合もありますから。

──ちなみに、著者になると、印税はどれくらいもらえるのでしょうか?

印税に関しては、出版社によります、としかいえません。印税率は、著者さんのネームバリューや実績に応じて8%、10%、12%が一般的でしょうか。これらの印税率で、発行部数に応じて支払う場合と、実売部数に応じて支払う場合の組み合わせが一般的でしょう。いずれにしても、本が売れれば印税はついていきます。

──一般の方からの企画には目を通してもらえるのでしょうか?

出版社、編集者によると思います。多忙で、持ち込み件数も多くてとても時間がない、というところも多いでしょう。しかし、どこに原石があるかわかりませんから門前払いはしたくないですよね。

 

出版プロデューサーを通すことによって、編集者のやるべき第一段階をクリアーできる

──出版の際、出版プロデューサーを通すことのメリットを教えてください。

出版プロデューサーは、いわば“ゼロ次編集者”です。

出版プロデューサーがいることで、プロデューサーの目線によるフィルターを一度通ります。そうすると、プロデューサーの視点が加味されて、編集者がやるべき初めの作業を既に終えているので、その次のステップから考えられるのです。

──様々な出版プロデューサーがいると思いますが、プロデューサーによって関わり方が違うのでしょうか?

スタックアップさんのように「本を売る」というところまで考えてプロデュースされるところはあまりないのでは、と思います。

プロデューサーの役割として、著者の身代わりになって並走して出版にこぎつけるまでがまずあります。

しかし、スタックアップさんの場合は、そこからさらに「本が売れる」というところまでプロデュースに力を入れているのが特色だと思います。

──瀬崎さんが編集を手掛け、商業出版を果たした書籍のひとつにLGBTがテーマのものがあります。企画を初めて見た時どのような印象を受けましたか?

恥ずかしながら、当事者の方々が抱えていらっしゃる問題をこの企画で初めて知って、蒙を啓かれたというか、そこに惹かれました。そして、これは多くの人に耳を傾けてほしいテーマだと思いました。

それで私はこの本を出すべきだと思いアピールしたのですが、当初、編集部内での反応は芳しくありませんでした。当時はLGBTに関して社会の関心が今よりも薄かったからです。

しかし、会議で「こういう本こそうちで出版しなくてはいけない」という声が上がって、出版へと流れが変わりました。

後尾(弊社):この書籍は毎年増刷されていて、常に書店にある、“常備”と呼ばれる本になっています。性的マイノリティの方の活躍が増えていく中で、今の社会に必要な本と考えられているわけです。

──企画が通るためには、やはり企画の核となる部分、言いたいことが明確であることが大切ということですね。

そうですね。企画が通ってからも、編集者と著者は二人三脚で本を作っていくので、最後までしっかりお付き合いができるかどうかということも判断基準になります。

 

“パートナー”であり、“読者代表”として根気よく作品と携わるのが編集者

──瀬崎さんが関わった著者さんとのことで印象に残ったエピソードを教えてください。

もう30年ほど前ですが、輸出入に関する書類の作成方法を解説したビジネス実用書を出したことがあります。それが当時、地味ながら結構売れました。

今はそうした手続きはデジタルになっているのかもしれませんが、当時、輸出入に関わる書類手続きを一般向けに解説した内容の本はまだありませんでしたし、それを書ける方もいませんでした。個人輸入が流行り始めた頃で、ありそうでない本だったんです。僕は面白いとは思いつつ、「売れるのかな?」と半信半疑で出したんですが。

本の完成後、著者の方から「素晴らしい編集だ」という内容の長文のお手紙をいただき、それは今も大切にとってあります。この仕事で「実用書はこう作ればいいんだ」という手応えをつかみました。

──それはパートナーとして併走してきたからこその喜びですね。最後に、瀬崎さんが編集者として本づくりで心がけていることを教えてください。

私は「編集者は最初の読者」だと思っているので、「私が読んでわからないことは読者もわからないだろう」というスタンスで原稿を読みます。

特に、ビジネス書、実用書といわれるジャンルの書籍は、著者さんには当たり前のことでも、それでは読者には伝わらない、というような記述になりやすいのです。

先に、編集者と著者さんは二人三脚と言いましたが、実は著者さんとそういうことで対立することもしばしばあります。

そんな時私は、「読者代表」のスタンスで向き合います。その上でお互い納得できるまで根気よくお話しするように心掛けています。