【工場の事例】経営理念が浸透すると品質が変わる
経営理念と企業理念の浸透について、これまで連載ブログを通して、M&Aにより新灯印刷(スタックアップの親会社)のグループ企業となった製本会社を事例にお話してきました。
第1回「経営理念の浸透はなぜ大切なのか?3代目の事例からお伝えします」
第3回「【事例!】経営理念が浸透しないと、現場で何が起こるのか」
今回は、それまで勤務していた会社が、買収されてグループ企業となったとき、現場では何が起こって、どう変化していったのか?従業員サイドから見た事例を取り上げます。
それまで経営自体が難しかったその製本会社は、おかげさまで増収増益を果たしているSS製本という会社です。M&A以前から工場長を務めている井上さんからお話を聞きました。
「文化の継承」はされていたが
SS製本株式会社は、サイズの異なる紙を合わせ手作業で糊付けする天糊製本を得意とし、優れた職人技を40年以上受け継いできました。ただ、M&A以前の仕事への取り組みには、かなり問題がありました。今では考えられませんが、清掃も決してよくやっているとは言えない状態で、土曜日になると職人同士の私語や休憩の回数が増えたりといったこともありました。もちろん、自分たちの製本技術や作っているものへの自負はありましたが、ミスや手戻りも多く、それが経営状況にも影響していたと思います。
後尾さんの経営理念に触れて、当たり前のことができていなかったことに、あらためて気づいたことが、最初の一歩でした。取組みは、まず工場の衛生面からはじめました。本当に簡単なことですが、毎朝、社内のごみを集めて清掃し捨てさせるようにしました。お恥ずかしいですが、掃除だとか、そういう基本的なことがなあなあになっている状況でした。
会社の本気を伝える
すぐに社員が危機感を持って、「変えよう」という方向に社内の意識が向いたわけではありません。その過程で、変化をよしとせず反発していた社員が退社してしまったこともありました。表立って反論はしないけれど、会社の新しい方針に納得せず、周囲の社員を取り込んで反発する状態が長い間続いていました。社歴が長く経験もあり、仕事のできる人だったので痛手でしたが、あえて引き留めませんでした。会社として、「こうしていきたいんだ」という本気度を伝えた出来事でした。 それと前後して、派閥のようなものもなくなり、会社の雰囲気が変わりました。
徹底的にミスをなくす
「ミスをなくそう」という工場のスローガンも作りました。後尾さんの「100年以上存続する会社」という経営理念と、「今の仕事に時間をかけて完璧なクオリティで納品し、顧客に長い付き合いをしてもらおう」という方針を、自分たちの言葉にしました。
「ミスをなくそう」この合言葉の下、通常の作業工程で異状が見つかったら、製本ラインを一旦止めて報告することを徹底しました。
異状が出たら、即、その場で確認、ミスがないか点検。製本はライン作業なので、後からではミスを見つけるのが難しいのです。ラインを止めることは勇気が要りますが、これを徹底することでミスがだいぶ減り、製品の品質が格段に上がりました。
次に、材料の無駄を省くことも徹底しました。本のサイズに合わせて包装紙切るんですが、切った残りの部分を他に使うようにしました。今までだったら捨てていたようなところもとっておく。そうすることで「これは大丈夫ですか?」という確認や指示を仰ぎに来ることが増えました。コミュニケーションも自然に増え、皆から「いい工場にしよう、いいものを作ろう」という意識を感じます。
「正直で真面目で明るい職場」を実現したら、新しい変化が見えてきた。
品質が変わったことでの取引先の変化もありました。以前からお取引のある会社が「前はうちに出すのは勇気がいった」と言ってくれました。「このくらい(ミス)はいいだろう、こんなもんでいいだろう」という意識がお客様に伝わって不安を持たせていたんですね。
また、初回のご依頼では工場に立ち会いに来られますが、残念ながら、以前は全員で1時間以上清掃しないとお客様を呼べない状況でした。それに、薄暗い照明の下で作業していて、お客様から口を揃えて「暗いな」って言われていました。
そこで、蛍光灯を変えて雰囲気も気持ちも明るく変わりました。材料や製品などの管理方法を工夫し、工場内の見た目からミスを防ぐ取り組みをしています。今では立ち合いのお客様から、いろいろと注意や注文を言われることもなくなりました。
もともと、私自身が最初に危機感を持ったきっかけは、グループ企業になる前の以前の体制下で、一番の得意先が倒産し、大きな取引を失ったことでした。何とかしなくてはと考え、取り扱い業務を変えようとしました。改装(一度書店に並んだ本をまた綺麗にして戻す仕事)から、製本業をメインにシフトしようとしました。しかし、思うような成果を得られませんでした。
後尾さんの言ったとおり、品質が向上したことで、お客様から評価をしていただけるようになり、新しい取引先も増えました。
目先の業務に捉われず、何のために仕事をしているのか、足元から見直し、お客様が何を求めてらっしゃるのかを考える、それがスローガン、経営理念を共有するということなのかなと思います。
企業をさらなる成長へ導きたい方、社内外に経営理念や企業理念を浸透させるための出版に興味をお持ちになられた方は、ぜひスタックアップまでご連絡をください。
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