【出版事例】「農業と食の選択が未来を変える」一般社団法人自然栽培協会監修
2023年7月に一般社団法人自然栽培協会監修による「農業と食の選択が未来を変える」が玄文社から上梓されました。
本書では環境への負荷をできる限り抑えた自然栽培という農業に焦点を当て、「医療」、「料理」、「農業」、「環境」の各分野のスペシャリストの視点から、本当にサスティナブルな食と農業のあり方をわかりやすく語っています。
発売からわずか1ヶ月で国内大手書店のジュンク堂書店池袋総本店とMARUZEN&ジュンク堂書店梅⽥店の双方にて週間総合ランキングで1位を獲得するなど、多くの方から関心を集めています。
今回は書籍の監修を行った一般社団法人自然栽培協会(以下、自然栽培協会)の理事である平田静子氏にお話を伺い、協会設立の背景や実現したい未来などについて熱く語っていただきました。どうか最後までお読みください。
自然栽培協会設立の背景、農業が変わると世界が変わる!?
―自然栽培協会設立の背景について教えてください
協会の設立は2018年になります。
設立の背景としては、年々深刻化する環境問題に対して、誰にとっても身近な“食”から解決に向けたアプローチができないかと考えたことです。
私たちが普段口にする食べ物としては野菜や果物、肉、魚など様々なものがありますが、実はそれらを生産するプロセスにおいて多くの環境へのダメージがあるということがわかっています。とりわけ農業に関しては課題が多く、肥料から発生する温室効果ガスの環境問題や農薬の使用による健康被害、野菜を育てる土壌の劣化など挙げたらきりがありません。
これら農業を取り巻く課題を解決したところで地球が抱える問題が全てクリアになるわけではありませんが、できることからアクションを起こし、それがやがて大きなうねりとなって確実に未来を変えられると私たちは信じております。
そこで、農業や食のあり方を再考し、地球にとっても人間にとっても負担の少ない自然栽培を広げていこうと考えました。
そしてこれはたまたまかもしれませんが、協会の理事が代表以外全員女性だという特徴があります。
これからの時代を見据えた女性活躍の一環ともいえるでしょう。
普段活動している領域こそ違いますが、みなさん第一線で活躍されている方ばかりなので、協会活動を通じて意見を出し合い、同じ目標に向かって協業できることは貴重な機会だと思っています。
このように自然栽培協会は構成しているメンバーも多様なので、それが協会の活動に幅をもたせているのではないでしょうか。
“選択肢の一つ”としての自然栽培
自然栽培とは、環境への負荷をできるだけ抑え、自然の循環に沿って作物を育てる農法です。
具体的には農薬や肥料を使わず、自然の循環に寄り添って作物を収穫するのですが、「そんなことができるの?」と思いますよね。しかし、雑草や街路樹を考えてみて下さい。
それらは特別に何かをしなくてもすくすくと育っています。自然のままで植物は育つのです。
私たちはこの自然栽培を自信を持って提唱していますが、それは決して他の農法を否定するということではありません。
自然栽培は従来の農法(慣行農法)の代替案ではなく、ましてやたった一つの正解でもないからです。
自然とは多様性そのものであり、自然栽培は多様性を尊重する農法です。
このスタンスは、他の農法や考え方、あり方を尊重することになります。
目指しているのは、世の中の農法が自然栽培一辺倒になることではなく、選択肢の一つになること。
それこそが自然栽培のあるべき姿といえるのではないでしょうか。
自然栽培協会が目指す「全ての食卓に自然栽培を」は、毎日の食卓が100%自然栽培で埋め尽くされるような状況を想定しているわけではなく、選択肢の一つとして日常に溶け込んでいくことです。
今は選択肢としてすら認知されていない状況なので、まずは選択肢の一つとして市民権を得ることが重要だと考えています。
今回の書籍発行もそうですが、協会としてはこれからも積極的に自分たちの活動を発信していこうと思っています。
想いだけでは広がらない。誰もが参加可能なプラットフォームを構築
―自然栽培というものが優れた農法であることは十分に理解できるのですが、一方でまだ認知度が低く、市場も限られているという現実があるかと思います。今後どのように自然栽培を広く周知させ、一般に普及させていこうとお考えでしょうか?
環境問題や健康問題を考慮して自然栽培や有機栽培のような農法を提唱する人や、マクロビオティックやビーガンのような食生活を選択する人は一定数います。
一昔前よりもこれらの存在や意義が理解されるようになりましたが、それでもまだ十分とは言えません。
その原因として、当事者たちの想いだけが一人歩きしているというのがあるのではないでしょうか。
厳しい言い方かもしれませんが、いかに素晴らしい理念や価値観があったとしても、想いだけでは広がってきません。自然栽培は優れた農法である。
これは大前提であって、それが広がってくための土壌を醸成することが重要なのです。
そのような意味で私たち自然栽培協会がやるべきことは、自然栽培の良さをひたすら伝えることではなく、自然栽培が市場にしっかりと認知され、ビジネスとして成立するプラットフォームをつくることだと考えています。
そのようなプラットフォームを、自然栽培協会の協力企業であり私が代表を努めるPlowDays株式会社にて構築しました。
このプラットフォームのことを、私たちは「ビオソーシャルプラットフォーム」と呼んでおり、2022年にはそのビジネスモデルにてグッドデザイン賞をいただきました。
プラットフォームを構成する要素としては、生産者つまり農家である「ビオファーマー」、買い手である「ビオカスタマー」、そしてプラットフォーム上で起こる様々な経済活動を行う「ビオパートナー」があり、これらの中心には「ビオモール」と呼ばれるマーケットがあります。
マーケットでは商品の売買が行われることになりますが、今のところリアルな店舗ではなくECサイトのようなイメージですね。これら4つの役割が有機的に関係し合い、自然栽培というものがビジネスとしても成立するスキームを具現化したのが「ビオソーシャルプラットフォーム」となります。
プラットフォームが活性化するためには、それぞれが相乗的にバランスよく成長することが不可欠ですが、とりわけ「ビオファーマー」に関しては課題が多いように感じています。
というのも、「ビオカスタマー」や「ビオパートナー」は専門的な知識や初期投資がなくても参入できますが、「ビオファーマー」はそうもいきません。
自然栽培を実践する生産者になるためには、自然栽培の農法を学んだり、一定規模以上の農地を確保したりとハードルが高いですよね。
しかし、生産者がいないことにはプラットフォームがいつまでたっても拡大しないので、私たちはテクノロジーの力を借りて自然栽培を実践する生産者の参入をサポートし、生産者を増やすために尽力しているところです。
玄文社との本づくりは他と何が違う?
―今回の書籍は玄文社から出版されましたね。平田さんは以前出版社でお仕事をされていました。そういう意味では出版のプロでいらっしゃるんですが、その平田さんから見て玄文社との本づくりにはどのような特徴やメリットがあるとお考えですか?
玄文社は出版社ですが、実はその背後には印刷会社である新灯印刷があり、2つの会社はグループ企業となっているのです。
本づくりのプロセスは分業になりがちですが、このように企画から出版までの工程をワンストップで行なっていることはコミュニケーション面においてもスピード面においてもメリットが大きいのではないでしょうか。
一般的な本づくりのプロセスは分業制となっているので、工程ごとに担当者が変わります。
そのような場合、担当者ごとに企画に対する理解にばらつきがあったり、必要な情報が共有されていなかったりするなど、意思疎通に問題が生じることが多々あります。
しかし、玄文者の場合は決して会社規模が大きいわけではないので、一人の人間が企画であり営業であるなどいくつかの役割を兼任し、本づくりの全体を通して密にコミュニケーションをとりながらやっています。
また、電子書籍の普及により、昨今では書籍の企画から出版までのスピードがますます加速しています。
そのような中であえて本というリアルな紙媒体で勝負するのであれば、スピードが速いということは間違いなくアドバンテージになりますよね。
これらの意味で、玄文社から本を出版するということは、スピーディーで質の高い本づくりを目指す人にとっては理想的な選択肢であると自負しています。
書籍で伝えたかったこと。啓蒙書ではなくビジネス書としての側面
―本書では自然栽培というものを社会的なアクションとして捉え、ビジネスとしての可能性についても示唆していますよね。そこにはどのような考えがあるのでしょうか。
「農業と食の選択が未来を変える」は、一見啓蒙書のようでもありますよね。確かにそれは間違えではありません。
しかし、実はビジネス書としての側面もあり、ビジネスパーソンにとっても多くのヒントが詰まった書籍となっているのです。
書籍の最後の章の中で私たちはESG投資について言及しています。
ESG投資とは、「環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を考慮して行う投資」のことで、日本ではまだあまり知られていませんが、欧米ではSDGsよりも周知された環境分野のトピックとなっています。
これまでは環境問題と経済活動はどこか相反するものとして捉えられていました。
しかし、これからは企業が率先して環境問題の解決と経済活動をリンクさせ、またそのような企業に対して積極的に投資をしていくことが世界のトレンドになりつつあります。
これはイメージアップのための戦略ではなく、企業ひいては自分たちが生き残るための切実な手段でもあるのです。
同様に考えると、自然栽培は農法における一つの選択肢でもありますが、同時にそれは持続可能な社会という観点から考えると必然に近いものがあるかもしれません。
これらを考えると、自然栽培は地球環境にも優しく、またビジネスとしても十分に可能性を持った分野と言ってもよいのではないでしょうか。
目指しているのは「全ての食卓に自然栽培を」
―最後に、自然栽培協会のビジョンを教えてください
私たちは自然栽培に携わる生産者・消費者を増やしていき、自然栽培という選択肢を当たり前にすることを目的としています。
しかし残念なことに、今はまだ自然栽培が“当たり前”の選択肢とは言えない状況です。
今、世界では様々な問題が起こっています。地球温暖化や生物多様性の減少のような環境問題から差別や貧困のような社会問題まで実に様々ありますが、これらを自分とは無関係の出来事と思わずに、地球の上に生きている以上はこれらの問題を「自分ごと」として考えるべきではないでしょうか。
地球で起こっている問題は自分の問題でもあると実感し、解決のために自分ができるアクションを探す。
その一つとして自然栽培を選択する。どのようなささやかなアクションでもいい。ほんの少しの行動変容がやがて問題解決に繋がるのです。
この書籍を読んで、世界で起こっている様々な問題を“自分ごと”として捉え、一歩踏み出す人が一人でも増えたら本当に嬉しく思います。